「鎚」の元は石ころであり、持ちやすいように柄がつけられ、使いやすいように形が考えられて来た。
「当て金」の元は「金床」であり古代では安定した岩や石であった。当て金は鎚が改良されたようにその金床が使いやすいように変化しただけのもの。当然どっしりと安定したもの程使いやすい。しかし小さな細工に巨大な金床や鎚が必要というはずはなく、むしろ小さい道具が使いやすい。
要は作業に応じた大きさ、強度、精度等が望ましい。
力を加える鎚、力を受ける金床、ひっくり返せば同じこと。しばしばタガネや金鎚を小物の当て金として代用できるように、金床・当て金・当て盤・鎚・タガネは石ころが改良されてきたものと思ってよい。違いは金床や当て金は固定して使うので、安定してかつ望む位置に望む形のものがあって欲しい、というものだし、鎚や当て盤は手に持って使うので使い心地の良い重さや形のものが欲しいというものである。そこで道具は多い程よいということになりがちだ。しかし当然限度がある。それよりも少ない道具を有効に使うか、初めから多様な働きをする道具を考えるほうが良い。
当て金で絞り作業をしたことのある人は、望ましい当て金が無いとか、有っても作り進むうちに当て金の面が合わなくなるとか、脚(支持部)の曲がりが合わなくなるという経験を味わっているであろう。形や位置が変化できる当て金を作れないだろうか。面の部分(又は脚)だけを交換出来ればかなり改善できると思われる。
そこで、従来の当て金の頭の部分を切り放し、ソケットを設け、任意の頭をつけかえていく、と考える。頭をそのまま使って、脚を変える場合も同じ対応である。 構造はなるべくシンプルなこと、改造や追加が容易なこと、入手しやすい市販のもので応用ができること、初心者向きにも有効なこと、応用性が広いこと(ヤニ台・鉛台・木・ゴムをセットできる)などを実現させたい。
よって頭に丸棒(軸)を付けて、ソケットをバイス式にすることにより固定と交換を可能にする。この丸棒(軸)を付けるということは、頭を任意の角度にセットできるということであり、1つの頭の全ての部分を使うことができるようになる。(ソケットの方向を変えて横向きにセットすることでさらに有効性が増す。)また、新たに当て金を造る場合にも頭の部分だけを造ればよいし、改造や手入れも軽いので容易である。
後になって気がついたのだが、この構造は自転車のサドルの固定調節部と同じ原理であった。
またこのシステムの開発中に、よく似た工具を見たことがある。ちょうど小型の「への字床」の頭を取り替え式にしたもので、角型テーパー付の足を先端の角穴に差し込むだけのシンプルなものであった。自分としてはとても良い物を考案したつもりでいたが誰でも同じように考えるもののようだ。それはドイツ製とのことで、かつてドイツのフオルツハイム造形大学を訪問した折に金工室で見た工具に近いものだった。その取り替え式の頭はアンビルの角穴に差し込んで使う工具と同じ部類であり、アンビルの一部をさらに延長し角穴を設ければさぞかし安定して具合がよいかと思われる。ドイツの工具は実に合理的で、蜂の巣床と万力の合体したようなものなど楽しいものがたくさんあった。
以上のドイツ式とこのシステムが異なるのは角穴ではなく、丸穴であることとバイス式ソケットであり、ある程度任意の方向・位置に据え付けられるということである。また、そのことで市販の丸棒をそのまま使えることと、横向き(横挿し)にしたり自由な角度でセットすることが出来るということである。
主な欠点:ソケットや丸軸部の精度が悪いと安定性が弱く、ある程度の精度を要す。(特に小型ほど必要)
故に、当て面だけでなく、ソケットや丸軸部も丁寧に取り扱う必要がある。
2020年、「RTG」の完成により、この欠点から解放された。素朴なギアによる接続であり、「RT」の丸軸部ほどの精度を要しない。
「RTG」の説明については「角度可変式」の紹介ページにリンク有り。▶ 「角度可変式」の紹介 ◀
この道具の名称をかつて「SS式当て金」と称してきました。特殊な(Special)ソケット(Socket)を使う当て金として、または、軸(Shaft)を据え付ける(Set)当て金として、そう呼んできました。
この度ダクタイル鋳鉄を専門とするクロダイト工業株式会社より、理想に近い道具として製作可能となり、従来の溶接を主とした構造のソケットと区別するために「RT」と称することにしました。
(「R」の字を採用したのは西洋の角型のピンに対して、丸軸を任意の位置・角度に固定できる構造であることと、やさしい感じのする好きな文字だから、などなど。)(実はこの「RT」の開発には父:利吉が全面的に協力してくれましたので、そのイニシャルの「R」とToolの「T」を組み合わせたのも本音です。)